借方・貸方を使った勘定科目への取引記録
前回の記事では取引の影響を会計の方程式を使って説明しました。
ただ、実務では取引ごとに方程式を使って記帳するわけではありません。
今回は、取引の記帳を実際にどのような手順で行うかを解説します。
勘定科目とT字勘定
勘定科目とは、特定の資産、負債、純資産、収益、もしくは費用の増減を表す記録です。
例えば、現金、売掛金、買掛金、売上、給与などがあります。
もっとも単純な形では、勘定科目は1)勘定科目の名前、2)左側(借方)、3)右側(貸方)の3つの要素で構成されます。
勘定科目名
借方 | 貸方 |
アルファベットのTに似ているため、上記の図はT字勘定と呼ばれます。
借方と貸方
簿記では借方と貸方という言葉が頻繁に使われますが、一般の会話で使われるようなお金の貸し借りを意味するのではなく、ただ単純にT字勘定の左側、右側という意味です。
実際に取引があった時に、どちら側に何を記帳するかは、その勘定科目の種類によって決まります。例えば、現金などの資産勘定科目の場合、資産が増えた場合は借方、減った場合は貸方に記帳します。反対に、買掛金などの負債勘定科目では、負債が増えた場合は貸方に、減った場合は借方に記帳します。
実際の例で見てみましょう。
現金(資産)で、以下のような増減があった場合。プラスの数字は現金が増えたことを、マイナスの場合は減ったことを表すとします。
+10,000
-1,000
-2,000
+5,000
上記の取引は、T字勘定では以下の通りに表現されます。
現金
借方 | 貸方 |
10,000 5,000 | 1,000 2,000 |
残高 12,000 |
数字にはプラスやマイナス記号は付けず、それぞれ借方と貸方に絶対値を記載することで表現します。また、勘定科目全体の残高は借方と貸方それぞれの小計を計算し、多い方から少ない方を引いて、多かった側に記載されます。このように、T字勘定を使うと金額の増加と減少が別々の欄に記載されるため、それぞれの小計を計算するのに便利なことがわかります。
次は負債勘定科目の場合を見てみましょう。以下のように、買掛金の増減があったとします。
+10,000
-2,000
-5,000
+3,000
上記の取引はT字勘定では以下の通りに表現されます。
買掛金
借方 | 貸方 |
2,000 5,000 | 10,000 3,000 |
残高 6,000 |
資産の場合は、借方が金額の増加、貸方が金額の減少を表していましたが、負債の場合は逆になり、借方が金額の減少、貸方が金額の増加を表します。
借方で増え貸方で減るパターンと、借方で減り貸方で増えるパターンの2つのパターンを解説しましたが、パターンとしてはこの2つしかなく、残りの純資産、収益、費用の勘定科目も、このどちらかに当てはまります。
借方で増え貸方で減る勘定科目
・資産
・費用
借方で減り貸方で増える勘定科目
・負債
・純資産
・収益
簿記では記帳の際、取引に関連する勘定科目の増減を借方、貸方どちらに記載すべきかを自然に判断出来るようにならなければいけないので、どの種類の勘定科目がどちらのパターンに当てはまるかを覚えるのは非常に重要です。
それにはやみくもに暗記するのではなく、なぜそれぞれの勘定科目が特定のパターンに当てはまるのかを理解出来れば、例え忘れてしまってもその場ですぐに答えがわかるようになります。
勘定科目の種類別に借方、貸方の配置を覚える方法
私が個人的に良く使う方法は、会計の方程式に当てはめて考えることです。
資産 = 負債 + 純資産
この方程式の左側と右側において、もしその項目と同じ側にT字勘定の数字があれば、それはその項目の増減を意味し、反対側にあれば減少を意味しています。
例えば資産勘定科目であれば、資産は方程式の左側にありますから、T字勘定でも左側(借方)に数字があれば資産の増加を意味しています。
反対に、もしT字勘定の右側(貸方)にあれば、方程式の資産の側(左側)とは逆側なので、資産の減少を意味しています。
反対に、負債と純資産は方程式の右側に位置していますので、これらの勘定科目の金額の増加はT字勘定の同じ側である右側(貸方)、減少は反対側である左側(借方)に記載すれば良いことがわかります。
収益と費用についても、純資産の部分を拡張した方程式によって考えると覚えやすくなります。
資産 = 負債 + (純資産 + 収益 - 費用)
この式では費用項目だけがマイナスなので、全てをプラスにするため費用項目を左側に移動させます。
資産 + 費用 = 負債 + 純資産 + 収益
こうして方程式を変形させた上で、収益と費用を考えます。
まず収益に関しては方程式の右側にあるので、T字勘定の同じ右側(貸方)に増加を記載し、反対側の左側(借方)に減少を記載します。
また、費用は方程式の左側にあるので、T字勘定の同じ左側(借方)に増加を記載し、反対側の右側に減少を記載します。
また、収益と費用の別の覚え方として、純資産との関係を考える方法があります。
方程式では、収益の増加は純資産の増加につながるので、収益は純資産と同じく、右側(貸方)が増加、借方が減少と覚えます。
反対に費用の増加は純資産を減らすので、純資産とは逆に左側(借方)が金額の増加を表し、右側(貸方)が金額の減少を表します。
このように収益と費用については、それぞれの増減が純資産を減らすのか増やすかによっても、T字勘定のどちら側に記載されるのかを覚えることが出来ます。